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【新型コロナ】岩田健太郎・高山義浩両医師:クルーズ船の告発動画を巡る全文記録。批判する前にこれを読もう!

経緯:クルーズ船の新型コロナ感染対策を巡る告発動画の公表と削除

新型コロナウイルスの集団感染が発生し、横浜に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。2月19日には、ウイルス検査で陰性であった乗客の下船が始まりました。




その前日の2月18日。災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)として一時船内に入った、神戸大学教授(医学研究科感染症内科)の岩田健太郎医師が、同日夜、YouTubeに、船内の感染対策が不十分であると告発する動画を公表。

再生回数が100万回を超えるなど、日本国内外で大きな反響を呼びました。

 

これに対して、このYouTube動画の中で岩田健太郎医師が「厚労省で働いている某氏」と説明していた高山義浩医師(厚生労働省・技術参与)が、事実認識の違いへのコメントや反論など自身の見解をFacebookに投稿し、さらに注目が集まりました。

2月20日朝、岩田健太郎医師は、同日の日本外国特派員協会(FCCJ)での記者会見を前に、YouTube動画を削除します。

岩田健太郎医師は、YouTube動画の削除について、自身のツイッターで、「動画は削除しました。ご迷惑をおかけした方には心よりおわび申し上げます」、「これ以上この議論を続ける理由はなくなった」と述べました。

 

その後の2月21日、高山義浩医師も、岩田氏との話し合いを踏まえて、自身のFacebookでの投稿を「友人限定」として非公開とし、今後は記録にとどめることを表明。

「今回は互いにとって残念な経緯となりましたが、岩田先生の優れた感染症医としての能力が、日本の感染症行政の発展へと活かされることを期待しています」とまとめています。

 

事実認識や意見の違いはあって当然ですので、専門家同士のやり取りが、透明性の高い形で行われたことは、新型コロナ自体や、その感染対策への理解を深めるうえで、とても意義があったと思います。

もっとも、残念ながら、ネットでは、一部分のみを切り取った報道に基づいて、一方的に自分の意見を主張して、相手の人格攻撃をするようなケースも多くみられます。

そこで、この記事では、お二人のやり取り記録の全文を記録しておきます。

是非、批判する前に、全文を読んでみてください。




岩田健太郎医師による告発動画(全文書き起こし)

岩田健太郎医師の経歴(出所:Wikipedia

  • 1971年 – 島根県生まれ
  • 1997年 – 島根医科大学(現:島根大学医学部)卒業、沖縄県立中部病院研修医
  • 1998年 – コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医
  • 2001年 – アメリカ内科専門医、ニューヨーク市ベス・イスラエル病院感染症フェロー
  • 2004年 – 亀田総合病院で感染症内科部長、総合診療感染症科部長
  • 2008年 – 神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)、同大学医学部附属病院感染症内科診療科長

岩田健太郎です。神戸大学病院感染症内科教授をしていますけれども、今からお話しする内容は神戸大学など所属する機関とは一切関係なく私個人の見解です。あらかじめ申し上げておきます。

今日2月18日にダイヤモンド・プリンセスに入ったんですけど、1日で追い出されてしまいました。何故そういうことが起きたのかについて、簡単にお話ししようと思います。

<「感染対策の専門家ではない」という立場で船内へ>

もともと、ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19の感染症がどんどん増えていくということで、感染対策はうまくいってないんじゃないかという懸念がありました。

(日本)環境感染学会が入り、FETP(国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース)が入ったんですけど、あっという間に出て行ってしまって中がどうなっているかよく分からないという状態でした。

(ダイヤモンド・プリンセスの)中の方からいくつかメッセージをいただいて「怖い」と、「感染が広がっていくんじゃないか」という事で私に助けを求めてきたので、いろんな筋を通じて何とか入れないかと打診してたんですね。

そうしたら昨日2月17日に厚労省で働いている某氏から電話がきて「入ってもいいよ」と、「やり方を考えましょう」ということでした。

最初、環境感染学会の人として入るという話だったんですけれども、環境感染学会はもう中に人を入れないという決まりを作ったので、岩田一人を例外にできないということでお断りをされて結局、DMAT(災害派遣医療チーム)のメンバーとして入ってはどうかというご提案を厚労省の方からいただいたので「わかりました」ということで18日朝に新神戸から新横浜に向かったわけです。

そうしたら途中で電話がかかってきて、誰とは言えないけど非常に反対している人がいると、入ってもらっては困るということでDMATのメンバーで入るって話は立ち消えになりそうになりました。

すごく困ったんですけど、何とか方法を考えるということで、しばらく新横浜で待っていたらもう1回電話がかかってきて「感染対策の専門家ではなく、DMATの一員としてDMATの仕事をただやるだけだったら入れてあげる」という非常に奇妙な電話をいただきました。

なぜそういう結論が出たのかわからないですけど、とにかく言うことを聞いてDMATの中で仕事をしてだんだん顔が割れてきたら感染のこともできるかもしれないから、それでやってもらえないかと非常に奇妙な依頼を受けたんですけど、他に入る方法はないものですから「分かりました」と言って現場に行きました。そしてダイヤモンド・プリンセスに入ったわけです。

<ものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思った>

入ってご挨拶をして、最初は「この人の下につけ」と言われた方にずっと従っているのかな?と思ったら、DMATのチーフのドクターと話をして、そうすると「お前にDMATの仕事は何も期待していない、どうせ専門じゃないし、お前は感染の仕事だろう、感染の仕事をやるべきだ」という風に助言をいただきました。これDMATのトップの方です、現場のトップの方。

そうなんですかと、私はとにかく言うことを聞くと約束していましたので「感染のことをやれと言われた以上やりましょう」ということで現場の案内をしていただきながら、いろんな問題点というものを確認していったわけです。

それはもうひどいものでした。もうこの仕事を20年以上やってですね、アフリカのエボラ(出血熱)とか中国のSARS(重症急性呼吸器症候群)とかいろんな感染症と立ち向かってきました。もちろん身の危険を感じることは多々あったわけですけど、自分が感染症にかかる恐怖は、そんなに感じたことはないです。

どうしてかというと、僕はプロなので自分がエボラにかからない、自分がSARSにかからない方法は知ってるわけです。あるいは他の人をエボラにしない、他の人をSARSにしない方法とか、その施設の中でどういうふうにすれば感染がさらに広がらないかという事も熟知しているからです。

それが分かっているから、ど真ん中にいても怖くない。アフリカに居ても中国に居ても怖くなかったわけですが、ダイヤモンド・プリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。これはもうCOVID-19に感染してもしょうがないんじゃないかと本気で思いました。

レッドゾーンとグリーンゾーンというんですけど、ウイルスが全くない安全なゾーンとウイルスがいるかもしれない危ないゾーンというのをきちっと分けて「レッドゾーンでは完全にPPEという防護服をつける」「グリーンゾーンでは何もしなくていい」と、こういうふうにきちっと区別することによってウイルスから身を守るというのは我々の世界の鉄則なんです。

ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別がつかない。

ウイルスって目に見えないですから、完全なそういう「区分け」をすることで初めて自分の身を守るんですけど、もうどこの手すりと、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのかさっぱり分からない状態で、いろんな人がアドホックに(その場その場で)PPEをつけてみたり手袋をはめてみたり、マスクをつけてみたり、つけなかったりするわけです。

で、クルーの方もN95(医療用マスク)をつけてみたりつけなかったり、あるいは熱のある方が、自分の部屋から出て歩いて行って医務室に行ったりするってことが通常で行われているということです。

<自分たちの感染のリスクをほったらかしにするのは御法度>

私が聞いた限りではDMATの職員、厚労省の方、検疫官の方がPCR(法の検査で)陽性になったという話は聞いてたんですけど、それはもう「むべなるかな」と思いました。

中の方に聞いたら「いやー、我々もこれ自分たち感染するなと思ってますよ」という風に言われて、びっくりしたわけです。どうしてかというと我々がこういう感染症のミッションに出るときは必ず自分たち、医療従事者の身を守るっていうのが大前提で、自分たちの感染のリスクをほったらかしにして患者さんとかですね、一般の方々に立ち向かうってのは御法度。これはもうルール違反なわけです。

環境感染学会やFETPが入って数日で出て行ったっていう話を聞いたときに「どうしてだろう?」と思ったんですけど、中の方は「自分たちに感染するのが怖かったんじゃない?」という風におっしゃっていた人もいたんですが、それは気持ちはよく分かります。

なぜならば、感染症のプロだったらあんな環境に行ったら、ものすごく怖くてしょうがないからです。

で、僕も怖かったです。今は(場所を)言えない部屋にいますけど、自分自身も隔離して診療も休んで家族とも会わずにいないとヤバいんじゃないかと、個人的にはすごく思っています。

今、私がCOVID-19ウイルスの感染を起こしても全く不思議ではない。どんなにPPEとかですね、手袋とかあってもですね、「安全と安全じゃないところ」っていうのをちゃんと区別できてないと、そんなものは何の役にも立たないんですね。

レッドゾーンだけPPEをキチッとつけて、安全に脱ぐっていうことを遵守して初めて自らの安全が守れる。自らの安全が保障できないときに他の方の安全なんか守れない。

今日は(愛知県岡崎市にある)藤田医科大学(の岡崎医療センター)に人を送ったり搬送したりするってことで、皆さんすごく忙しくしてたんですけど、そうすると、検疫所の方と一緒に歩いてて、ヒュッと患者さんとすれ違ったりするわけです。

「あ!今、患者さんとすれ違っちゃう」と、笑顔で検疫所の職員が言っているわけですよね。我々的には超非常識なことを平気で皆さんやってて、みんなそれについて何も思っていないと。

<常駐しているプロの感染対策の専門家が一人もいない>

聞いたら、そもそも常駐しているプロの感染対策の専門家が一人もいない。時々いらっしゃる方はいるんですけど、彼らも結局ヤバいなと思ってるんだけど何も進言できないし、進言しても聞いてもらえない。

やってるのは厚労省の官僚たちで、私も厚労省のトップの人に相談しました、話しましたけど、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ないと。「なんでお前がこんなとこにいるんだ」「なんでお前がそんなこと言うんだ」みたいな感じで知らん顔するということです。非常に冷たい態度を取られました。

DMATの方にもそのようなことで「夕方のカンファレンスで何か提言申し上げてもよろしいですか」と聞いて「まあ、いいですよ」という話をしてたんですけど、突如として夕方5時ぐらいに電話がかかってきて「お前は出ていきなさい」と検疫の許可は与えない……。まあ、臨時の検疫官として入ってたんですけど、その許可を取り消すということで資格を取られて検疫所の方に連れられて、当初電話をくれた厚労省にいる人に会って「なんでDMATの下でDMATの仕事をしなかったの」と、「感染管理の仕事をするなと言ったじゃないか」と言われました。

「DMATの方にそもそも、感染管理してくれって言われたんですよ」って話したんですけど「とにかく岩田に対してすごいムカついた人がいる」と「誰とは言えないけどムカついた」と。「だからもうお前はもう出ていくしかない」って話をしました。

「でも僕がいなくなったら今度、感染対策するプロが一人もいなくなっちゃいますよ」って話をしたんですけど「それは構わないんですか?」って聞いたんですけど。それからこのままだと、もっと何百人という感染者が起きてDMATの方も……。

<病院に戻った医療従事者から院内感染が広がるリスク>

DMATの方を責める気はさらさらなくて。あの方々は全く感染のプロではないですから。どうも環境感染学会の方が入った時にいろいろ言われて、DMATの方は感染のプロ達にすごく嫌な思いをしてたらしいんですね。それはまあ、申し訳ないなあと思うんですけれども、別に彼ら(DMATの方)が悪いって全然思わない。専門領域が違いますから。

しかしながら「彼らが実は恐ろしいリスクの状態にいる」わけです。「自分たちが感染する」という。それを防ぐこともできるわけです、方法はちゃんとありますから。ところがその方法が知らされずに自分たちをリスク下においていると。そしてそのチャンスを奪い取ってしまうという状態です。

彼らは医療従事者ですから、帰ると自分達の病院で仕事するわけで、今度はそこからまた院内感染が広がってしまいかねない。もう…これは大変なことでアフリカや中国なんかに比べても全然ひどい感染対策をしている。シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした。

日本にCDC(疾病予防管理センター)がないとは言え、まさかここまでひどいとは思ってなくて、もうちょっとちゃんと「専門家が入って専門家が責任を取って、リーダーシップを取って、ちゃんと感染対策についてのルールを決めて、やってるんだろう」と思ったんですけど、まったくそんなことはないわけです。もうとんでもないことなわけです。

これ英語でも収録…つたない英語で収録させていただきましたけど、とにかく多くの方にこのダイヤモンド・プリンセスで起きている事っていうのをちゃんと知っていただきたいと思います。

できるならば学術界とかですね、あるいは国際的な団体ですね、日本に変わるように促していただきたいと思います。

考えてみると、2003年のSARSの時に僕も北京に居てすごい大変だったんですけど、特に大変だったのはやっぱり「中国が情報公開を十分してくれなかった」っていうのがすごく辛くて、何が起きてるのかよく分からない。北京に居て本当に怖かったです。

でもそのときですら、もうちょっときちっと情報は入ってきたし、少なくとも対策の仕方は明確で、自分自身が感染するリスク……。まあSARSの死亡率は10%で怖かったですけれども、しかしながら今回のCOVID-19、少なくともダイヤモンド・プリンセスの中のカオスの状態よりはるかに楽でした。

で、思い出していただきたいのはそのCOVID-19、中国で武漢で流行り出した時に、警鐘を鳴らしたドクターがソーシャルネットワークを使って「これはヤバイ」ということを勇気を持って言ったわけです。

昔の中国だったら、ああいうメッセージが外に出るのは絶対許さなかったはずですけど、中国は今BBCのニュースなんかを聞くとやっぱりオープンネス(開放性)とトランスペアレンシー(透明性)を大事にしているという風にアピールしてます。

それがどこまで正しいのかどうか僕は知りませんけど、少なくとも透明性があること、情報公開をちゃんとやることが国際的な信用を勝ち得る上で大事なんだってことは理解しているらしい。中国は世界の大国になろうとしてますから、そこをしっかりやろうとしている。

ところが日本は、ダイヤモンド・プリンセスの中で起きていることは全然情報を出していない。

<この悲惨な現実を知っていただきたい>

それから、院内感染が起きているかどうかは、発熱のオンセット(発症日時)をちゃんと記録して、それから(流行の詳細を知る)カーブを作っていくという統計手法「エピカーブ」ってのがあるんですけど、そのデータは全然取ってないということを今日、教えてもらいました。

PCRの検査をした日をカウントしても感染の状態は分からないわけです。このことも実は厚労省の方にすでに申し上げてたんですけど、何日も前に。全然されていないと、いうことで、要は院内の感染がどんどん起きててもそれに全く気付かなければ……。気付いてもいないわけで、対応すらできてない、専門家もいない。むちゃくちゃな状態になったままでいるわけです。

このことを日本の皆さん、あるいは世界の皆さんが知らぬままになっていて、特に外国の皆さんなんかはそうやって、かえって悪いマネジメントでずっとクルーズ(船)の中で感染のリスクに耐えなきゃいけなかったということですね。

やはりこれ、日本の失敗な訳ですけど、それを隠すともっと失敗なわけです。確かに「マズイ対応であるということがバレる」っていうのはそれは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。やはり情報公開は大事なんですね。

誰も情報公開しない以上は、まあここでやるしかないわけです。

ぜひこの悲惨な現実を知っていただきたいということと、ダイヤモンド・プリンセスの中の方々、それからDMATやDPAT(災害派遣精神医療チーム)や厚労省の方々がですね、あるいは検疫所の方がもっとちゃんとプロフェッショナルなプロテクションを受けて、安全に仕事ができるように。彼ら、本当にお気の毒でした。

ということで、全く役に立てなくて非常に申し訳ないな、という思いと、この大きな問題意識を皆さんと共有したくてこの動画を上げさせていただきました。

岩田健太郎でした。

(注)全文書き起こしはハフポストによります(小見出しはハフポスト編集部が付けたものです)。記して感謝致します。




高山義浩医師による告発動画へのコメント・反論(Facebook掲載全文)

高山義浩(たかやま・よしひろ)の経歴(出所:本人HP

  • 福岡県生まれ。東京大学医学部保健学科卒業後、フリーライターとして世界の貧困と紛争をテーマに取材を重ねる。2002年山口大学医学部医学科卒業、医師免許取得。国立病院九州医療センター、九州大学病院での初期臨床研修を経て、2004年より佐久総合病院総合診療科にて地域医療に従事。この頃より人身売買被害者を含む無資格滞在外国人に対する医療支援を行なう。2008年より厚生労働省健康局結核感染症課においてパンデミックに対応する医療提供体制の構築に取り組む。2010年より沖縄県立中部病院において感染症診療と院内感染対策に従事。また同院に地域ケア科を立ち上げ、退院患者のフォローアップ訪問や在宅緩和ケアを開始。2014年より厚生労働省医政局地域医療計画課において高齢化を含めた日本の社会構造の変化に対応する地域医療構想の策定支援に取り組む。現在は、ふたたび沖縄県立中部病院に戻り、急性期病院と地域包括ケアシステムの連携推進に取り組んでいる。群馬大学医学部非常勤講師、神戸大学医学部非常勤講師、琉球大学医学部非常勤講師、日本医師会総合政策研究機構非常勤研究員、沖縄県地域医療構想検討会議委員、沖縄県在宅医療・介護連携推進事業統括アドバイザー、うるま市高齢者福祉計画策定委員会委員。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『ホワイトボックス 病院医療の現場から』(産経新聞出版、2008年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)など多数。最近のマイブームは、沖縄本島の釣りと岸壁めぐり。

岩田 健太郎先生の動画(コメント欄にリンク)を拝見して、まあ、「岩田先生らしいなぁ」と思いつつ、あまり気にしていなかったんですが、しっかり炎上しているようです。

岩田先生をご存じない方々には、ちょっと刺激が強すぎたのかもしれません。ただ、下船していく乗客の方々、現場で頑張っている方々を追い詰めかねない内容なので、事実は事実と認めつつも、動画のなかに登場する当事者として、勘違いされていること、抜けているところは修正させていただきたいと思います。

>1日で追い出されてしまいました。

事実です。正確には、船内におられたのは2時間弱ですね。ご覧になったのは、ラウンジ周辺のみと認識しています。

>厚労省で働いている某氏から電話がきて「入ってもいいよ」と、「やり方を考えましょう」ということでした。

これ、私ですね。ただし、「入ってもいいよ」とは言ってません。その権限はないので。ただ、「やり方を考えましょう」とは申し上げました。そして、環境感染学会が活動していたので、そこを通じてなら活動できるかもしれませんとアドバイスしました。でも、申し込むも(しばし放置されたのちに)断られたとのことでした。

>DMATのメンバーとして入ってはどうかというご提案を厚労省の方からいただいた

これ、私です。その通りです。

>DMATの職員の下で感染対策の専門家ではなく、DMATの一員としてDMATの仕事をただやるだけだったら入れてあげる

これ、私。ただし、「入れてあげる」とは言ってません。その権限はないので。ただ、「DMATとして入る以上は、DMATの活動をしっかりやってください。感染管理のことについて、最初から指摘するのはやめてください。信頼関係ができたら、そうしたアドバイスができるようになるでしょう」と申し上げました。

というのも、現場は乗客の下船に向けたオペレーションの最中であって、限られた人員で頑張っているところだったからです。そうしたなか、いきなり指導を始めてしまうと、岩田先生が煙たがられてしまって、活動が続けられなくなることを危惧したのです。まあ、クルーズ船とは特殊な空間ですし、ちょっと見まわしたぐらいでアドバイスできるものではないとも思ってました。

もちろん、岩田先生の豊富な経験を否定するものではありません。ただ、DMATや自衛隊、検疫所など多様な組織が重層的に活動している特殊な環境ですから、まずは慣れていただくことを優先するよう私は求めたのです。

>「分かりました」と言って現場に行きました。

というわけで、岩田先生は約束してくださいました。

>DMATのチーフのドクターと話をして、そうすると「お前にDMATの仕事は何も期待していない、どうせ専門じゃないし、お前は感染の仕事だろう、感染の仕事やるべきだ」という風に助言をいただきました。

これ事実です。岩田先生は、これで自分は感染対策についての活動ができるようになったと理解されました。ただ、船には、DMATのみならず、厚労省も、自衛隊も、何より船長をはじめとした船会社など、多くの意思決定プロセスがあります。その複雑さを理解されず、私との約束を反故にされました。せめて、私に電話で相談いただければ良かったんですが、そのまま感染対策のアドバイスを各方面に初めてしまわれたようです。

結果的に何が起きたか・・・、現場が困惑してしまって、あの方がいると仕事ができないということで、下船させられてしまったという経緯です。もちろん、岩田先生の感染症医としてのアドバイスは、おおむね妥当だったろうと思います。ただ、正しいだけでは組織は動きません。とくに、危機管理の最中にあっては、信頼されることが何より大切です。

>アフリカに居ても中国に居ても怖くなかったわけですが、ダイアモンドプリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。

これは岩田先生の感受性の問題ですから、否定するつもりはありません。また、船という特殊な閉鎖空間において、新興感染症が発生しているわけですから、怖くないはずがありません。ただ、そのなかで継続して頑張っている人たちがいることは、ぜひ理解してほしいと思います。ちなみに、私は明日も船に入ります。

課題は多々ありながら、これまで少しずつ改善させてきました。まだまだ改善の余地はあります。ただ、乗客がいる以上は逃げ出すわけにはいかないのです。少なくとも全てのオペレーションが終わるまでは、乗客を下船させて地域に、世界に放つわけにはいきませんでした。

最優先事項は身を守ることだと感染症医の端くれとして私も思いますが、2週間にわたり船のなかで頑張っている人たちは、乗客を支えながら日本と世界を守ることを最優先としているのです。

そういう事態になってしまったことについて、政府を批判することは構いませんが、解決を与えないまま現場を恐怖で委縮させるのは避けてほしかったと思います。逃げ出せない以上は・・・。

>ダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別かつかない。

感染症医として「グチャグチャ」と表現されるのは、分からないこともありません。でも、この表現はゾーニングがまったく行われていないかのような誤解を与えます。しかしながら、実際はゾーニングはしっかり行われています。完全ではないにせよ・・・。

たしかに、先進国の病院であれば、あるいは途上国でセットされるNGOや国際機関による医療センターであれば、もっと洗練された感染対策が実施されるでしょう。でも、いきなり、約3700人の乗員・乗客(しかも高齢者が多い)において新興感染症が発生した船舶・・・ というミッションは極めて複雑なのです。

私は海外でのNGO活動に関わったことがありますし、現在も国際NGOの理事を務めていますが、どんなNGOであっても、あるいは国際機関であっても、これが混乱状態から始まることは避けられないでしょう。この2週間が反省すべきところがなかったとは言いませんが、ここまで現場はよく頑張ってくれたなと私は思います。精神論と嘲笑されるでしょうが・・・。

>検疫所の方と一緒に歩いてて、ヒュッと患者さんとすれ違ったりするわけです。

さすがに、これは違います。そのような導線にはなっていません。患者ではなく、乗客ではないかと思います。乗客ですら、そのようなことは稀だと思います。

>話しましたけど、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ないと。

感染症医はコンサルタントとしての能力が求められます。それは聞いてもらう能力でもあります。私は聞いてもらえなかったとき、相手がダメだとは思いません。自分の説明の仕方が悪かったと思います。

>でも僕がいなかったら、いなくなったら今度、感染対策するプロが一人もいなくなっちゃいますよ

これは間違いです。毎日、感染症や公衆衛生を専門とする医師が乗船して指導しています。ご存じなかったんだと思います。まあ、ご自身に比べればプロのうちに入らないと言われると、返す言葉もありませんが・・・

>シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした。

シエラレオネにおいて、先進国が運用する医療センターのことだと思います。最貧国の市中病院の感染管理の悲惨さと同一視させることのないようにお願いします。

>エピカーブというのがあるのですが、そのデータを全然とっていないということを今日、教えてもらいました。

これ間違いです。岩田先生のせいではありません。教えた人が知らなかったんでしょうね。感染研がエピカーブを公表しています。新たな報告を加えてバージョンアップされるでしょうが、すでに公表してますし「全然とっていない」わけではありません。

以上、私なりに感じたことを述べました。見解の相違もあれば、私が間違っているところもあるでしょう。ぜひ、ご指摘ください。ともあれ、私は岩田先生の「志」を否定するつもりはありません。クルーズ船の対応についても教訓としていけるよう、きちんと検証して活かしていくべきです。

そもそも、こんなことは初めての取り組みです。失敗がないわけがありません。それを隠蔽するようなことがあれば、それは協力してくださった乗客の皆さん、仕事を放棄しなかった乗員の方々、自衛隊の隊員さんたち、そして全国から参集してくれた医療従事者の方々を裏切ることになります。

ただ、いま私たちの国は新興感染症に直面しており、このまま封じ込められるか、あるいは全国的な流行に移行していくか、重要な局面にあります。残念ながら、日本人は、危機に直面したときほど、危機そのものを直視せず、誰かを批判することに熱中し、責任論に没頭してしまう傾向があると感じています。不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければと思っています。

以上です。

冷静かつ事実と科学的知見に基づいた建設的な議論が行われること、そして、新型コロナウイルスの感染拡大が食い止められることを心から期待しています。

そして、岩田健太郎・高山義浩両医師への個人攻撃が止むことをお祈りしています。

記事をご覧いただき、どうもありがとうございました!